さて31巻の舞台は400年前。この400年前のストーリーがあったからこそ、俺はONE PIECEの中で空島編が一番好きなんです。同意してくれる人は多くはないですが、他のどのパートよりも俺はここが好きなんですよ…
さて400年前のジャワ島。シャンディアの大戦士が登場!
カルガラ!
侵入者は全て排除する、この考え方はワイパーに受け継がれています。カルガラ→ワイパー、ノーランド→ルフィに置き換えてみると、この400年前の出来事は今現在空島で起きている出来事と同質です。その視点から読み直すとまた面白いもんです。
そしてこのジャワ島に流れ着いたのが…
モンブラン・ノーランド!
ここで出てきました、嘘つきノーランドが。はっきりいってこの時点でジャワ島でのモンブラン・クリケットとのくだりなんて読者は皆忘れてますよ(笑)だけどあのくだりこそが最大の伏線やったわけですな…
さてシャンドラでは謎の奇病から村を守るために村の娘を生贄として捧げてました。
蛇を神として敬う気持ちは分からんでもないわな。やはりあの異形のスタイルは斬新。そしてヘビ以上に少年心を震わせる動物はいません。あいつはね、とにかく捕まえにくいんよ。住宅街に紛れ込んだ個体ならともかく、森の中で見つけたヘビを捕まえるのはホント至難の技。それゆえに捕まえたらすぐに学校に持っていって自慢するのが慣わしでした。学校の手洗い場に水を張ってね、そこにヘビを泳がせて遊ぶんですが、100%女子が先生にチクって終わるんです(笑)
さてもちろんこんな儀式は認めらんないノーランドはカシ神を殺し、村の皆を救うと約束。シャンドラの誰もノーランドの言葉を信じたりはしませんが、酋長だけは1日の猶予をくれました。
酋長「神官のジジイも死に…私には神の声を聞く力もない。」
う~ん、深い。説得力や交渉力というものを高めようと思ったらとにかくそれを裏付ける資料を用意しがちではあるものの、その前に一番必要なものは懸命さなのかもしんないね…
つーわけで疫病を治す成分を見つけたノーランド。
ノーランド「この成分を世界中のどれだけの人々がどれだけの時間を費やし探し回ったか、どれだけの犠牲を伴ったかお前にわかるか⁉この偉大な進歩をお前達は踏みつけにしているんだ!だからお前達の儀式は彼らへの侮辱だと言っているんだ!」
400年前のジャヤでの出来事と400年後の空島での出来事、もちろんアッパーヤードという舞台を軸としてリンクしてるんですがそれだけではない。根本に根づいているのは400年前もそして400年後も変わらず「神=恐怖の対象」という事なんですよ。ノーランドの戦いも、ルフィの戦いも、結局はそれを打ち砕くための戦いなんです。
つーわけでカルガラと和解したノーランド、シャンドラの灯の意味を知ります。
カルガラ「この鐘の音には…言葉がある。」
ノーランド「言葉?」
カルガラ「死んで天に迎えられた先祖達の魂が…」
通信機器ところか郵便すら無い時代、遠く離れて暮らす者たちの安否を知る手段、それは鐘の音であったり生活の煙であったりしたんでしょな…
がしかーしノーランドが身縒木を切り倒したことで2人は仲違い、だけどもノーランドが身縒木を切り倒したのはシャンディアの人々のためでした…
船医「提督は神や仏が嫌いな訳じゃないよ…」
これは深いセリフかもね…神仏を尊ぶ心情はもちろん分かる。だけども本来人々の魂の拠り所としてあるべき神という存在は、ときに宗教裁判や宗教戦争という形で人を殺すんですよ。人々のために作られたはずの信仰や教義が人を殺すという逆転現象が起こるんですよ。世の中で一番価値ある物は人の命だとは思わないけども、信仰を一番価値ある物として人の命を軽んじることもまた間違いなわけですな…
つーわけで真実を知ったカルガラ、魂の叫び。
カルガラ「ノーランドォ~!また来いっ!この地でおれはお前を待っている!ここでずっと鐘を鳴らし続ける!また来る日のお前の船が海で迷わないように!嵐の中でもこの島を見失わないように!」
カルガラ「またいつの日か必ず会おう!親友よ!」
ここまで通信手段や交通手段が発達した現在において、もう会えないかもしれない別れというものはまず無いよな。だから別れの時に涙を流すのは正直嘘くさい。会おうと思えばすぐ会える別れなんて、別れとは呼べないのかもな…
さて5年後、ジャワ島を再び訪れたノーランドでしたがそこにシャンディアの姿は無し。国民から嘘つき呼ばわりされ、死刑執行される寸前までノーランドはシャンディアの存在を否定することはありませんでした…
ノーランド「カルガラ…君は今どこにいる?生きているのか…?」
ここで一言、私のこれまでの経験談は嘘でしたとノーランドが認めていれば、嘘つきノーランドという物語は生まれなかったかもしれないし、400年にわたり子孫を苦しめることもなかったかもしんない。さらに言えば処刑されることもなかったかもしんない。だけどもノーランドにはそれはできなかった、親友の存在を否定することなんかできんかったわけですな…
さてノーランドがシャンディアを訪れる1年前にノックアップストリームで白々海に飛ばされたカルガラ、アッパーヤードを奪おうとする神兵と戦います。
カルガラ「あれから村も変わったんだ。お前に貰った作物もよく育ったよ。うちの娘とセトが夫婦になったぞ。話したい事が山程あるんだ、ノーランド。同じ大地でいつの日か必ず会おう、ノーランド!」
ワンピースがここまで大ヒットした要因の1つとして「きっちり練り込まれた物語の背景」というものを挙げることができるんじゃないでしょーか。週刊連載の漫画だと「毎週毎週ストーリーを盛り上げようとした結果、コミックスでまとめて読むと盛り上げどころがボヤけてる」というパターンはよく見ます。だけどもワンピースは物語の背景というかプロットというのか、それがきっちり固まってからストーリーを進めてる感じがします。だから面白いんだと思いますよ。
……とは言いつつ、行き当たりばったりでストーリーをつなげていく男塾や聖闘士星矢もそれはそれで面白いんですがね(笑)
つーわけで400年前の大戦士カルガラの思いを知ったワイパーは…
ワイパー「…ねえ…酋長…」
ただ先祖の土地を取り戻そうとしてるだけだと思っていたワイパーにこんな戦いの動機があったわけですな。もちろんこの背景も当初から練られておったんでしょーが、それを読者に公開するタイミングも絶妙よね…
さてワイパーに戦いの動機があればもちろんルフィにも戦いの動機があります。ナミが何を言おうがもう止まりません。
ナミ「いい加減にしてよ!今の…」
ルフィ「お前も見ただろ!」
ナミ「何をよ…」
ナミ「え…」
ルフィ「ウソじゃなかった。ひし形のおっさんの先祖は…」
ルフィ「鐘を鳴らせば聞こえるはずだ!じゃなきゃおっさん達は!死ぬまで海底を探し続けるんだぞ!」
ナミ「ルフィ…」
ルフィ「エネルなんかに取られてたまるか!でっけェ鐘の音はきっとどこまでも聞こえるから!」
ええよね、戦いの動機が…
昔の少年漫画やアニメの主人公の戦う理由ってのはほとんどが「世界の平和を守るため」ですよ。鉄腕アトムから紡がれてきたこの戦いの動機にどれだけ多くのヒーロー達が盲目的に従ってきたことか。だけども少しずつ変化が生まれてきたんよね。とあるサイヤ人は強い奴と戦いたいがために戦い、とある男塾塾生は男を磨くためだけに戦い(笑)ただ単に正義のために戦う主人公はもはや完全に時代遅れだけども、弱い者を守るため、愛する者を守るためっていう戦いの動機ももはや読者を惹きつけるには弱いのかもな…